「今度は今度 今は今」新潮社ダイヤモンドオンライン 掲示板大賞128より | カラスの独り言

「今度は今度 今は今」新潮社ダイヤモンドオンライン 掲示板大賞128より

お寺の掲示板128】こんなふうに生きていけたなら
今度は今度 今は今 江田智昭 ダイヤモンド・ライフ編集部 社会「お寺の掲示板」の深〜いお言葉
2024.10.15 5:00

今年も「お寺の掲示板大賞」の秋がやってきました。涼しい朝晩には散歩をして、お寺の掲示板の言葉を読みながら、毎日を新鮮な気持ちでお過ごしください。(解説/僧侶 江田智昭)
一つ一つの所作を大切に
 仏教伝道協会主催「輝け!お寺の掲示板大賞」も、2024年で7回目を迎えました。今年も7月1日から応募を受け付け、9月30日に締め切りました。今回の応募作品数は3755点。過去最高だった前回の4107点には及びませんでしたが、奇をてらわないまじめな作品が増えている印象を受けました。たくさんのご応募、誠にありがとうございます。恒例の大賞発表は12月5日ですので、今年も幾つかの応募作品をそれまでご紹介して参ります。
 今回の掲示板に書かれた言葉、これは今春の米アカデミー賞作品賞にノミネートされた映画『PERFECT DAYS』で主演を務める役所広司さんのセリフです。役所さんは、独身で無口なトイレ清掃員の役を演じています。
 朝まだ暗い内に起きて、道具を積み込んだ自動車で隅田川を渡り、渋谷区にあるトイレを清掃し、帰ってきたら墨田区の銭湯に入る。そして、行きつけの浅草の店でサワーを飲み、文庫本を読んで寝る。彼が毎日こなしているルーティンの中に特に大きな刺激はありません。
 作品を実際にご覧になった方は分かると思いますが、彼はそうしたルーティンワークの一つ一つの中に喜びを見出していました。この作品のキャッチフレーズは「こんなふうに生きていけたなら」。日常のささいな行為を大切にして、それを楽しむことができたら、そんな人生は幸せだと感じられる作品でした。
 この作品の監督を務めたのは世界的巨匠のヴィム・ヴェンダースさん。彼は以前、インタビューの中で、主演の役所広司さんのキャラクターは、カリフォルニアに住む友人の禅僧をイメージして作ったと答えていました。
 確かに禅寺の僧侶は、毎日ほぼ同じ行動を繰り返し、その過程にある一つ一つの所作を大切にします。そして、特に掃除という行為を重要視します。ですから、この作品はある意味、仏教(禅)的な映画ともいえるかもしれません。
毎朝必ず空を見上げて微笑む
 彼の細かいルーティンには、「毎朝必ず空を見上げて微笑む」というものが含まれていました。それは曇りの朝でも雨の朝でも決して変わることはありません。
新しい一日を自分は生きているのではなく、生かされている。
 この気持ちが心の中になければ、朝からどんよりした曇り空を見上げて微笑むことはなかなか難しいでしょう。おそらく彼の心の中に、新しい一日を生かされることへの感謝の気持ちがあったことは間違いありません。
 彼は代々木八幡宮の境内でいつも昼ご飯を食べ、その際、空から射す木漏れ日の様子を毎日同じ場所で写真に収めます。焼き付けた木漏れ日の写真を並べたところ、一枚たりとも同じ木漏れ日の日は存在しません。彼は毎日撮影した木漏れ日の写真を日付ごとに整理し、大切に保管していました。
今度は
今度
今は

 毎日の木漏れ日に同じものが一つとしてないように、この世界に同じ一瞬は存在しません。「今度」の一瞬と「今」の一瞬は全く異なります。普段無口な彼がこの言葉を通して、「今」の一瞬の重要性を、訪れてきためいに対してきっと伝えたかったのでしょう。
 大人の生活は、毎日毎日、会社や家庭で同じことの繰り返し。それをつまらない、退屈だと思って生きている人は大勢いるかもしれません。たとえ同じようなことを毎日やっていても、毎日すべてが同じということは絶対にありません。毎日が同じだと思えるのなら、それは自分の心の持ち方に原因があります。
「日日是好日」。目の前の世界や自身の行為(ルーティン)は、おのれの心の持ち方で全く変わって見えてきます。心の中に「今」の一瞬を大切にして、それを楽しむ感性があれば、世の中に同じ日など存在しなくなり、きっと目の前の世界が尊く、美しく見えてくるのではないでしょうか。

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